医療における2025年問題とは
近い将来の日本に確実にもたらされる大きな問題の一つが2025年問題です。
人口減少や少子高齢化が急速に進む中で、2025年には65歳以上の高齢者の割合が全体の30%を超え、後期高齢者と呼ばれる75歳以上の人口は2,100万人以上となり、全体の20%に迫ると試算されています。
2025年に後期高齢者となる人たちは、いわゆる団塊の世代。
戦後直後に訪れたベビーブームで生まれた世代のため、他の世代よりも人口に対する割合が高めです。
その世代が一挙に後期高齢者となる事で、社会へのあらゆる影響が予想されています。
その中で最も大きな影響を受けるのが医療業界です。
高齢者と医療は切っても切り離せない関係となっているため、医師はこの2025年問題を念頭に今後のキャリアやそれに伴う転職・転科を検討することが求められてくるでしょう。
医療費の増加
高齢者の割合が急激に増加することで起こるのが、医療費の増加です。
日本は世界でも先進的な医療保険制度である国民皆保険制度により、国民が医療を受けやすくなっています。
病院で診療を受ける際に、被保険者は療養の給付などを受けることができますが、特に高齢者は病気や怪我などになりやすいため、2025年以降、この医療保険給付額の急増が見込まれているのです。その額は、年間およそ55兆円。
2020年の予測と比較しても5年で10兆円以上増加すると見られています。
果たしてこれらを人口減少の中、また、景気が低迷したままの我が国が賄えるのか、この点が大きな課題となっています。
要介護・認知症患者の増加
高齢者が多くなるということは、要介護認定者の増加も避けられません。
2020年には500万人を超えると予想される要介護者数ですが、これが2025年には600万人を超えると言われています。
特に要介護3以上の高齢者の増加率は非常に高く、病気や怪我などに加え、常に介護が必要な高齢者の数も現在より200万人近く増えると考えられているのです。
同様に、認知症患者数の増加も避けることはできません。
こちらも2025年には、軽度なものも含めると700万人程度にまで増えると予測されています。
日常生活に支障を来し、意思疎通も難しく自立が困難であるとされる自立度3以上の認知症患者数は170万人を超え、65歳以上の人口の5%以上がこれに該当するという試算もあります。
慢性疾患の高齢者が患者の中心になる
高齢者が急速に増える一方で、我が国の寿命は伸びている現状があります。
これにより懸念されるのが、慢性疾患を抱える患者の増加です。
当然ながらこれは高齢者の急激な増加が原因のため、2025年問題の大きな課題としても強く意識しなければなりません。
糖尿病や高血圧症など生活習慣病の一部もこれに当たるわけですが、その罹患者数が増えることで医療費の増加にも繋がり、また後述するような医師不足にも拍車がかかります。当然医療施設や介護職員の人手不足も加速。医療業界のみならず社会全体が悩まされることになるのです。
2025年以降、この慢性疾患を患った高齢者が患者の中心となってくるでしょう。
健康寿命を延ばすことは重要ではありますが、それによりさらに寿命が伸び、また先述したように団塊の世代が後期高齢者となることは確実であるため、慢性疾患を患った高齢者への対応に追われることは避けられません。
孤独死の高齢者が増加
一人暮らしの高齢者数も年々増加傾向にあります。
2025年には男性高齢者の約15%が、女性高齢者の約23%が一人での生活を余儀なくされると予測されています。
数にすると、男性が230万人ほど、女性が470万人ほどと、かなりの数に上ることがわかるでしょう。
高齢者は必ずしも、近くに家族が住んでいたり、地域の連携や行政の取り組みにより常に見回りを受けられるとは限りません。
2025年問題では、こうした一人暮らしの高齢者に対する施策に回せる財源の確保も難しくなる点が指摘されています。
つまり孤独死してしまう高齢者の増加も避けることが難しい状況となってしまうのです。
地方の医師はこうしたお年寄りへの見回りなどを積極的に行うことが可能ですが、都市部では簡単なことではありません。
施設で世話をするにもお金がかかり、しかし自宅で一人暮らしでは孤独死のリスクが高まるとあって、非常に難しい対応が行政側にも求められてくるでしょう。
医師数の不足
現在、医学部の入学定員を過去最大規模まで増員したことや、各自治体や医療機関などによる離職を防ぐための取り組みの強化が進んでいることもあり、医師数は順調に増え続けています。
しかし、未だ医師不足や地域による偏在の状況が改善されたとは到底言えません。
2025年には高齢者が急増するわけですが、医師数が増加傾向にあるとは言いつつも、高齢者増加の速度にはついていけないのもまた事実です。
医師不足は解消されるどころか、2025年からさらに拍車がかかり、その弊害があらゆるところで出てくるでしょう。
若手の医師が適切な診療を行えるようになるまでは一定の期間が必要となりますが、以前に比べて患者が医師の選択にこだわる傾向も見られ、これにより優秀な医師に患者が集中するケースも増えてきています。
医師ごとの需要の差が顕著となれば、高齢化社会に伴う医師不足の解消は、さらに遠のいてしまうでしょう。
『病院完結型』から『地域密着型』の医療へ
日本はかつて高齢者の割合が非常に少なく、子供たちや現役世代の割合が大半を占めていました。
現在では様変わりし今後超高齢化社会を迎え、それが2025年から大きな問題をもたらすと考えられているわけですが、これにより医療体制や患者との接し方も見直さざるを得なくなるでしょう。
かつては、患者が病院へとかかった場合、概ねその病院で患者の診療から退院までの管理を一貫して行うケースが大半でした。
しかしこれからは、医師や医療機関の不足に加えて、患者の中心も急性期疾患から慢性期疾患へと傾向が変化することが予想されます。
そのため、これまでの病院完結型ではなく、より医療機関同士の連携や地域ごとの医療体制を構築した『地域密着型』の医療が求められるでしょう。
重要となる「地域包括ケアシステム」構築
現在まで病院完結型の医療は、医療機関や医師と患者との関わり合いにより診療等が行われてきました。
これからは地域全体で高齢者を支える地域包括ケアシステムが重要な役割を担うこととなります。
これは患者が住み慣れた街や住宅などを中心に、その周辺の医療機関や介護施設などが連携しながら地域ごとに高齢者をケアしていこうとする試みです。
さらに予防や生活支援なども加え、より幅広い視点で超高齢化社会に対応しようというわけです。
地域包括ケアシステムは、各自治体がそれぞれのエリアの特性に配慮しながら構築することが何よりも重要です。
医師はこうした取り組みの中で重要な役割を果たすことになるでしょう。
このような地域密着型(地域連携型)と呼ばれるような医療体制を2025年に向け、行政を中心に構築していくことが求められます。
在宅医療の課題
地域包括ケアシステムのように、地域ごとに医療や介護のケアシステムを構築し2025年問題に備えることは非常に有意義です。
しかし、そこには課題もあります。
医療業界と介護業界が連携しなければ在宅医療が円滑に進むことはありません。
他業種及び他職種間でいかに連携を取るかが重要な課題となってくるのです。
患者情報はもちろんですが、医療や介護に関する専門知識への理解不足は、在宅医療の質を下げてしまいます。
また、医療機関同士でも臨床倫理に関する考え方に齟齬があれば、患者や家族にとってはデメリットとなる可能性が出てきてしまうでしょう。
このように、机上だけでは整理できない現実問題や課題が今後も表面化していきます。
それらをどう解決へと導くのか、多くの医師にとって他人事ではありません。
2025年問題を見据えた医師の在り方
2025年問題を見据えて、医師はどのように在るべきでしょうか。
以前と比較すると患者の考え方や疾病傾向も異なってきているため、より新しい時代に順応していくことが医師には求められてくるでしょう。
特に着目すべきは、総合診療科医のニーズと高齢者医療に対する考え方や診療技術です。
これらをどれだけ意識しながらキャリアプランを構築していくのかが、医師としての経歴を左右することになりそうです。
総合診療科医のニーズが高まる
これまで説明してきたように、現在でも慢性疾患を抱える高齢者が増え続けており、2025年からはさらに急激に増加することが確実です。また、高齢者の慢性疾患患者は1つ2つではなく、あらゆる病気を併発する傾向があります。
そうした患者に対して診療を行う総合診療科医の需要は間違いなく高まるでしょう。
これからの総合診療科医は病気の診断や治療に限らず、高齢者特有の健康状態や精神状態、家族との関係性や生活環境、経済状況などにも配慮した上で治療方針を見出していく能力が求められます。
必要であれば他の医師や介護職員などとも連携し、トータル的にケアすることも重要な役割となります。
言い換えれば、心の支えになる存在とも言えるでしょう。
何かの専門領域に特化しているわけではないという指摘もありますが、それだけに幅広い分野に関わるのが総合診療科医です。
2025年以降の超高齢化社会に向けて重要な存在となることは間違いありません。
医師にとって今後必要不可欠な「高齢者医療」
高齢者医療は地域包括ケアシステムをはじめ、国や自治体、介護職員などあらゆる業種・職種の人たちとの連携により成り立つべきものです。
医師が最初から最後まで全て面倒を見る時代はすでに過ぎ去っており、今後は他業種・他職種の人たちと密に連携をとりながら高齢者を支える環境づくりが医療機関に求められることになります。
また、予防医療への意識も高める必要が出てくるでしょう。
2025年以降、日本はこれまで以上に医療費増加や医師不足などの大きな問題に直面することになります。
その問題を少しでも和らげるためには元気な高齢者を増やすことも重要です。
高齢者医療という考え方の一環として、高齢者への予防の促進や啓発などを行うことが、医療機関に求められる役割の一つとなってくるでしょう。
国が2025年の医療において対策していること
2025年問題に、政府も対策を推進しています。
高齢者の増加は避けられないため、2025年以降を見据え子供の数や人口そのものを増やそうと、少子化対策に乗り出しています。
ただし具体的な政策が見えてこない点や、仮に出生率が上がったとしても子供たちが生産年齢に達するまでには一定の年月を要する点で、まだ効果的な対策とは言えない状況です。
他には、地域包括ケアシステムをはじめとした医療や介護制度に対する改革を一部実施・推進しています。
また、医師や介護士の不足状況を改善しようと、就職支援やロボット開発への助成などの施策も進めているようです。
ただ、これらも直ちに効果が見込めるようなものではなく、2025年までの間に問題や課題の解決が期待できるほどの成果は見込めないでしょう。
医療と2025年問題についてのまとめ
ドクタールートおすすめの医師転職特集はこちら